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11.3 渦糸上のケルビン波(Kelvin waves on a filament)―渦線の動力学

カットオフ・パラメータを(2)で与えたときの $\sigma$ の結果は、次節で議論する柱状渦のらせん振動に関するケルビンの理論と照合することで検証できる。Moore [1972] は、カットオフ近似を用いて、互いに逆回転する一対の渦糸の有限振幅振動(航空機後流渦のモデル)を計算した。Dhanak と de Bernardinis [1981] は楕円渦輪の発展を調べた。いずれの計算でも渦糸が交差し、その時点で計算は無効となるため、計算を続けるには場当たり的な「渦糸の切断と再結合」の仮説が必要になる。(11.2節

 半径 $a$ の $z$ 軸に平行な直線状の円形渦糸を考える。円筒座標系 $(r,\theta,z)$ において、速度成分を $(0,V(r),W(r))$ とする。ここで基本流のまわりの無限小擾乱 $(u_r,u_\theta,u_z)$ を考え、これらは基本流のまわりで線形化されたオイラー方程式と、同次境界条件付きの連続の式を満たすものとする。以後、正規モード法を用い、良い振る舞いを示す(離散的な固有)解として次の形を探す。( $p$ は圧力)

$$
\left\{
\begin{split}
&\, u_r = u(r)e^{i(kz+m\q+\sigma t)} \EE
&\, u_\q = v(r)e^{i(kz+m\q+\sigma t)} \EE
&\, u_z = w(r)e^{i(kz+m\q+\sigma t)} \EE
&\, p = p(r)e^{i(kz+m\q+\sigma t)}
\end{split} \qquad(1)
\right.
$$

 軸方向の波長は $\DL{ \ff{2\pi}{k} }$ であり、$m$ は方位方向波数を表すまた、$m$ 整数でなければならない。許される $\sigma$ が固有値(離散スペクトル)を与え、対応する $u,v,w,p$ が固有関数の成分である。境界条件は、これらの変数が $r\to\infty$ で $0$ に近づき、さらに $r\to0$ のときに $u_r\cos \q-u_\q\sin\q, u_r\sin\q+u_\q\cos\q, u_z, p$ が解析的(すなわち $x,y,z$ のテイラー級数で表せる)になること、である。計算すると、これには次が必要である( $\A, \beta, \gamma$ は複素定数)。

$$
\left\{
\begin{split}
&\, u \sim \A r^{|m|-1} \EE
&\, v \sim i\A r^{|m|-1} \RM{sgn}\, m \EE
&\, w \sim \beta r^{|m|} \EE
&\, p \sim \gamma r^{|m|}
\end{split} \qquad(2)
\right.
$$

 もし、$m=0$(軸対称擾乱)なら $\alpha=0$ である。さらに $r=a$ において $V$ または $W$(あるいはそれらの導関数)が不連続で、渦層(vortex sheet)または渦跳躍(vortex jump)があるなら、擾乱流は、変位した境界面 $(D\ll a)$ にて、

$$
\begin{split}
r = a+De^{i(kz+m\q+\sigma t)}
\end{split} \qquad(3)
$$

 上での適切な境界条件、すなわち法線速度と圧力の連続性 $(D\ll a)$ を満たす。渦跳躍の場合には、速度の 3 成分の連続性で十分である。これらの条件は通常どおり、$r=a$ における変数とその導関数の間の同次方程式として表される。

 一般解がこのような解の無限和で表せるかどうかを決める問題は完備性問題であり、一般に難しい。もし離散スペクトルが完備でなければ、一般解には連続スペクトル上の不適切固有関数の積分が含まれる(例:Drazin and Reid [1981])。また、もし複素数の $\sigma$ が見つかれば渦は不安定である。一方、$\sigma$ が実数なら、少なくとも無限小擾乱に対して渦は安定と信じられており、連続スペクトルからの寄与は時間とともに代数的に減衰すると考えられているため、一般には重要視されない。しかし、必ずしもそうとは限らないのである。Rosenbluth & Smith [1990] は、2 次元擾乱に対する連続スペクトルが時間とともに増大する擾乱を与える渦糸の例を示している。

 ここでは、任意のプロファイルをもつ渦糸の安定性(重要な問題ではあるが)について追究しない。代わりに、比較的に単純だが重要な、一様渦(uniform vortex)で一様な軸方向流を伴う場合に議論を限定する。すなわち、$V = \Omega r, W=const.\,\,(r<a)$ かつ $\DL{ V=\ff{\Omega a^2}{r}, W=0\,\,(r>a) }$ とする。解析は長いが Chandrasekhar [1961] および Drazin & Reid の扱いに従うので、ここでは割愛する。最終結果だけを述べると、次の超越方程式となる。

$$
\begin{split}
\ff{ (\sigma+m\Omega)^2 }{4\Omega^2-g^2} \left[ \ff{\beta a\, J’_{|m|}(\beta a) }{ J_{|m|} (\beta a) }+\ff{2\Omega m}{g} \right] = -a|k| \ff{ K’_{|m|}(|k|a) }{ K’_{|m|}(|k|a) }
\end{split} \qquad(4)
$$

なお、

$$
\left\{
\begin{split}
&\, g=\sigma+m\Omega+kW \EE
&\, \beta^2=\ff{ k^2(4\Omega^2-g^2) }{g^2}
\end{split} \qquad(5)
\right.
$$

である。

 擾乱の性質は $m$ の値に依存する。$m=0$ なら擾乱は軸対称であり、形状変形を “sausaging mode”(ソーセージ状モード)と呼ぶ。 $|m|\ge 2$ なら “fluted mode”(フルート状モード)と呼ぶ。たとえば $m=2$ では断面が楕円に変形し、それが $z$ に沿って回転する。これらのいずれの場合も $r=0$ で $u=v=0$ であり、渦の軸は変形しない。

 さて、$m=\pm1$ のモードは “bending modes”(曲げモード)と呼ばれる。この場合、渦の軸が変形し、速度擾乱は $r=0$ では消えない。変形したコアは(3)で与えられる。$D$ を実数としてその実部を取ると、それは $\theta=\DL{ -\ff{kz+\sigma t}{m} } $ で与えられる半径方向の上に中心 $r=D$ をもつ円である。

 $m=1$ では、逆ピッチ $\gamma=kD$ をもつ左巻きらせんで、周期は $\DL{ \ff{2\pi}{\sigma}} $ である。いま $\gamma\ll1$ なら、$D\ll a$(ケルビンの解析が成り立つ条件)と、さらに $\DL{ \ff{a\gamma}{D} \ll1}$(§3 のカットオフ解析が成り立つ条件)を同時に満たすことができる。したがって、$ka\to0$ の極限で(4)から得られる $\sigma$ は、(2.13) から得られるものと一致すべきである。Moore and Saffman [1972] の扱いに従い、長波極限 $ka\to0$ で(4)を調べる。$m=1$ かつ、$k>0$ をとると、(4) の右辺は、$\DL{ 1+k^2a^2\left( K-\ff{1}{4} \right)+O(k^4a^4) }$ ここに $K=\log \DL{ \ff{2}{ka}-C+\DL{\ff{1}{4}} }$ である。なお $C$ はオイラー定数である。

 この極限でも依然として無限個のモードが存在する。というのも $g\to0$ のとき $\beta a\to\infty$ となり、$\beta a$ は $J_1(\beta a)$ の根を無限回通過するため、分散関係(4)の解は常にそれらの根のどれかの近傍で見つかるからである。しかし、それらの根は周波数が $O(\Omega)$ で、半径方向に激しく振動する依存性をもち、ここで関心があるのは $\sigma\ll\Omega$ で半径方向構造がほとんどない根である。この場合 $\beta a\ll1$ であり、次の展開を用いる。

$$
\begin{split}
\beta a\, \ff{J’_1(\beta a)}{J_1(\beta a)} = 1-\ff{1}{4}\beta^2a^2-\ff{1}{96}\beta^4a^4
\end{split}
$$

すると、分散関係はいくらかの代数計算の後に次の形にできる。

$$
\begin{split}
\ff{ (\tilde{\sigma}+1 )^2 }{1-( \tilde{\sigma}+kaR )^2 } = 1+Kk^2a^2-k^3a^3R \ff{ 2\tilde{\sigma}+2+kaR }{ 4( \tilde{\sigma}+1+kaR )^2 }
\end{split} \qquad(6)
$$

ここに、$\tilde{\sigma}=\DL{\ff{\sigma}{\Omega}, R=\ff{W}{\Omega a} }$ であり、内部ロスビー数(internal Rossby number)と見なせる。この数が $1$ のオーダーであることは、コア周りの旋回流(swirl)と軸方向流が渦糸運動へ同程度に寄与する条件である。そのとき(6)の整合的な根は、

$$
\begin{split}
\tilde{\sigma} = \ff{1}{2} k^2a2^(K-R^2)-\ff{1}{2} k^3a^3R\left( K+\ff{1}{2} \right)+\ff{1}{2}k^3a^3R^3
\end{split} \qquad(7)
$$

であり、誤差は $O(k^4a^4)$ のオーダーである。

 (2.13)との比較により、$\DL{ \log 2\delta = R^2+\ff{1}{4} }$ のときカットオフ計算と一致することが分かる。これは(2.2)が予言する値でもある。将来の参照のため(§14.4 で述べる)、長波の軸対称波 $(ka\to0,m=0)$ で軸方向速度がゼロ $(W=0)$ のときの波速 $c$ が次で与えられることを注意しておく。

$$
\begin{split}
c = \ff{2\Omega a}{\xi} \qquad \big( J_0(\xi)=0 \big)
\end{split} \qquad(8)
$$

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