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8.4 半無限渦面の巻き上がり:Kaden スパイラル(Roll-up of a semi-infinite vortex sheet: The Kaden spiral)―第8章 2次元における渦層

 第6章1節では、Klein Kaffeeloffel 実験における渦層の生成と、それが巻き上がって 2 つの粗粒渦を形成する様子について説明した。このとき、渦層の初期強度は以下のようになる。

$$
\begin{split}
\kappa = \ff{2Ux}{ \sqrt{a^2-x^2} }
\end{split} \qquad(1)
$$

 上から分かるように、渦層の強度は端部($x=\pm a$)で無限大となる。この分布は、楕円形の荷重を受けた翼の後ろの渦層強度が、翼端の速度が無限大の不連続性を生み出すと解釈することもできる。

 Kaden(1931)は、$x$ 軸上に伸びる半無限渦面の巻き上がりを考え、初期強さと循環が以下の下、

$$
\begin{split}
\kappa = \ff{\gamma}{\sqrt{x}},\quad \G=2\gamma \sqrt{x}, \quad (0<x<\infty)
\end{split} \qquad(2)
$$

そして、初期形状についてはBirkhoff-Rot 方程式より、このようになる。

$$
\begin{split}
Z=\ff{\G^2}{4\gamma^2} \quad (0<\G<\infty)
\end{split} \qquad(3)
$$

この問題を解くことで、渦層の端にある特異点の性質を決定することができる。

 外部から課せられた長さスケールが存在しない(外部の参照できる物差しが無い?)ため、$t>0$ の場合には、$Z=Z(\G,t,\gamma)$ については、次元解析より次のように推論される。

$$
\begin{split}
Z(\G,t,\gamma)=(\gamma t)^{2/3} \zeta(\tau) \quad \RM{where}\,\, \tau=\ff{\G}{\gamma^{4/3}\,t^{1/3}}
\end{split} \qquad(4)
$$

これをBirkhoff-Rot 方程式に代入すると、$\zeta(\tau)$ に関する以下の特異積分方程式が得られる。

$$
\begin{split}
2\overline{\zeta}-\tau \ff{\diff \overline{\zeta}}{\diff \tau} = -\ff{3i}{2\pi}\, \RM{p.v.}\int_0^{\infty} \ff{\diff \tau’}{\zeta(\tau)-\zeta(\tau’)} \quad (0\leq \tau \leq \infty)
\end{split} \qquad(5)
$$

初期瞬間 $t=0$ は $\tau=\infty$ に対応し、その境界条件は、

$$
\begin{split}
\zeta(\tau)\sim \ff{1}{4}\tau^2 \quad \RM{as}\,\,\, \tau\to\infty
\end{split} \qquad(6)
$$

 (6) は実際には $0<\tau<\infty$ の範囲のとき (4) の正確な解であることに注意されたい。問題は、$\DL{\int_0^{\infty}\ff{\diff \tau}{\tau^2} =\infty}$ であるために、$\tau=0$ のとき解が得られないことである。この失敗は §6.2 で述べたように、前縁吸引によるものである。したがって、$\zeta_0 \equiv \zeta(0) \neq 0$ と結論づけられ、解は次の基準を満たすはずである。

$$
\begin{split}
|\zeta_0|<\infty, \quad \left| \int_0^{\infty} \ff{\diff \tau’}{\zeta_0-\zeta(\tau’)} \right|<\infty
\end{split} \qquad(7)
$$

 (6)と(7)が、(5)の唯一の解の存在を保証するのに十分であるかどうかは知られていないが、解が存在するという仮定に基づいて、$t>0$ での渦層の形状を決定するための簡単な幾何学的議論を与えることができる。

 Kaden に従い、渦層が $Z_0=\zeta_0\, (\gamma t)^{2/3}$ で終わる螺旋状に巻き上がり、先端付近では螺旋はきつく巻かれ、巻き線はほぼ円形かつ、半径方向の動きは無視できると仮定する。寸法上の考慮により、半径 $r$ の円周上の循環はこのようになる。($\lambda$ は未知定数)

$$
\begin{split}
\G(r) = 2\gamma (\lambda r)^{1/2}
\end{split} \qquad(8)
$$

 そして、半径 $r$ における接線速度 $v_{\q}$ は以下で与えられる。

$$
\begin{split}
v_{\q}=\ff{\G}{2\pi r}=\ff{\gamma \lambda^{1/2}}{\pi\,r^{1/2}}
\end{split} \qquad(9)
$$

 円座標 $\G_p$ を持つ渦層上の流体粒子を考える。この粒子の動径座標および接線座標 $r_p,\q_p$ は、$v_{\q}=r_p\dot{\q}_p$ の関係そして、(8)および(9)から以下が得られる。

$$
\left\{
\begin{split}
&\, r_p = \ff{\G^2_p}{4\gamma^2 \lambda} \EE
&\, \q_p = \ff{\gamma \lambda^{1/2}}{\pi\, r_p^{3/2}}t+const.
\end{split} \qquad(10)
\right.
$$

また、$r$ が小さい場合、あるいは $t$ が大きい場合、これらの関係式の 2 番目は、添え字 $P$ を削除した螺旋の漸近方程式を与える。

$$
\begin{split}
r\sim \left( \ff{\gamma^2 \lambda}{\pi^2} \right)^{1/3} \left( \ff{t}{\q} \right)^{2/3}
\end{split} \qquad(11)
$$

(11)から明らかなように、$\q→\infty$ のとき、螺旋はきつく巻かれた円弧で構成されることになり、これは議論の根拠となった暫定的な仮定を裏付けている。長さ $\diff s$ の要素は次のように与えられ、螺旋は無限長となる。

$$
\left\{
\begin{split}
&\, \diff s = r\diff \q\sqrt{ 1+\ff{1}{r^2}\left( \ff{\diff r}{\diff \q} \right)^2 }\sim \ff{\diff \q}{\q^{2/3}} \EE
&\, \int \diff s = \int^{\infty} \ff{\diff \q}{\q^{2/3}} = \infty
\end{split} \qquad(12)
\right.
$$

$\zeta=\zeta_0+f(\tau)e^{i \phi(\tau)}$ の形で表現される形状の無次元定式に戻ると、$\tau→0$ のとき漸近的に、

$$
\left\{
\begin{split}
&\, f(\tau) = r(\gamma t)^{-2/3}\sim \ff{\tau^2}{4\lambda} \qquad(13) \EE
&\, \phi(\tau) = \q\sim \ff{8\lambda^2}{\pi \tau^3}+\eps \qquad(14)
\end{split}
\right.
$$

と表される。ここに、$\eps$ は未知定数とする。

 $\gamma_0, \lambda$ と $\eps$ は、螺旋の先端付近の渦層の力学を考慮して、局所的に決定することはできず、(5) の解全体の様子に依存する。接線速度 $v_{\q}\propto r^{-1/2} \to \infty$ は $r→0$ のとき一定のため、螺旋の中心では速度場は特異である。しかし、先端速度は有限である。なぜなら、以下の関係が成立するためである。

$$
\begin{split}
\int_0 \ff{\diff \tau}{\zeta-\zeta_0} \sim \int_0 \ff{\diff \tau}{\tau^2 e^{ \ff{8i\lambda^3}{\pi r^3} }} < \infty
\end{split} \qquad(15)
$$

 さらに、渦層の強度は以下のように与えられる。

$$
\begin{split}
\ff{1}{\kappa} = \left| \ff{\diff Z}{\diff \G} \right| = \ff{t^{1/3}}{\gamma^{2/3}} \left| \ff{\diff\zeta}{\diff \tau} \right| \sim \ff{6\lambda^3}{\pi \tau^2}\,\ff{t^{1/3}}{\gamma^{2/3}}
\end{split} \qquad(16)
$$

つまり、

$$
\begin{split}
\kappa \propto \ff{\tau^2}{t^{1/3}} \propto \ff{\G^2}{t} \propto \ff{r}{t} \propto \ff{t^{1/3}}{\q^{2/3}}
\end{split} \qquad(17)
$$

という関係があることが言える。

 このように、渦層強度は中心に近づくにつれて、あるいは固定した $r$ で $t→\infty$ のとき減少し、これは螺旋が締まるにつれて渦層が連続的に引き伸ばされているという事実を表している。渦層強度は初期条件により $r→\infty$ のときゼロになる。

 したがって、ある時刻において渦層強度が最大となる $t$ の値が存在する。ただし、Kaden 螺旋の安定性は未解決の問題である。渦層の引き伸ばしによってケルビン―ヘルムホルツ不安定性(§2参照)に対して渦層が安定化される可能性がある。もし不安定であれば、渦層強度が最大となるところで初めて不安定性が現れる可能性がある(Moore [1974])。Moore [1975]は高次の補正(13)と(14)について研究した。具体的には、$\zeta$ を次の様に書き、

$$
\begin{split}
\zeta = \zeta_0+F(\tau)\exp \left( \ff{8i\lambda^2}{\pi r^3}+i\eps \right)
\end{split} \qquad(18)
$$

彼は(5)の漸近解析から、以下を得ている。(ただし、$n=\DL{\ff{1}{3}(\sqrt{13}-1)}=0.87$ である)

$$
\begin{split}
F(\tau)\sim \ff{\tau^2}{4\lambda}+\left\{ A\exp\left( \ff{16i\lambda^2}{\pi r^3} \right)+B\exp\left( -\ff{16i\lambda^2}{\pi r^3} \right) \right\} \tau^{3n+2}
\end{split} \qquad(19)
$$

したがって、螺旋の巻きは楕円形となり、螺旋の中心から距離 $r$ における長短の軸比は、$O(\tau^{3n})=O( r^{3n+2}/(\gamma t)^n )$ となる。定数 $A$ と $B$ は局所的な解析によって決定されるのではなく、全体的な構造に依存する。

 Moor が指摘したように、Kaden 螺旋の内側の巻きに対する楕円補正は、$n$ の値も単純な議論によって予測できる。詳細な螺旋構造(すなわち粗視化)を無視し、密に巻かれた巻きを、接線方向の速度場 $k/r^{1/2}$ を持つ半径 $R$ の円形渦核に置き換える。螺旋の外側部分は、実質的に非回転歪み場を課し、つまり $e^{2iθ}$ に比例する項によって流れ関数を摂動させる。

 したがって、コア内部の流れ関数は、$ψ=2kr^{1/2}+δg(r)\cos 2θ$ の形に摂動を受ける。ここで $δ<<1$ である。これが準定常解となるためには、$ψ$ および $▽^2ψ$ のヤコビアンが が $0$ でなければならない。$g(r)∝r^N$ を代入し、$δ$ について線形化すると、$N=\DL{ \ff{1}{2}\sqrt{13} }$となる。したがって、コアは長短軸比 $R^{N-1/2}=R^{\ff{3n}{2}}$ の楕円に変形される。

 Moor による高次補正の解析は、これらの方程式が孤立した(すなわち局所的に唯一の)解を決定するのに十分であることを示唆している。そして、コア構造を記述する 3 つの未知のパタメータ($λ、\zeta_0、\eps$)がこれらの方程式によって決定され、解が存在することが保証される。しかしながら、Betz [1932] によって提案された $λ$ の推定法がある。これは、半径 $R$ の円の内側でコアを形成する渦度に作用する渦力は、この渦度の重心の周りにトルクを持たないという仮説に基づいている。すなわち、

$$
\begin{split}
\om(r) = \ff{1}{r}\ff{\del}{\del r} (rv_{\q}) = \ff{1}{2}\ff{\gamma \lambda^{1/2}}{\pi r^{3/2}}
\end{split} \qquad(20)
$$

と (9) 式を用いると、コア内の粗視化渦度は、強度が $\gamma x^{-1/2}$ である初期渦層の長さ $X$ から導かれる。具体的には以下の関係が成立する。

$$
\begin{split}
2\pi \int_0^R r\,\om\,\diff r = \int_0^X \ff{\gamma}{\sqrt{x}} \diff x
\end{split} \qquad(21)
$$

さらに、角運動量保存の法則から、

$$
\begin{split}
-\pi \int_0^R r^3\, \om\,\diff r = \int_0^X \ff{\gamma}{\sqrt{x}} (x-\bar{x})^2\diff x
\end{split} \qquad(22)
$$

ここに、

$$
\begin{split}
\bar{x} = \ff{ \DL{\int_0^X \gamma \sqrt{x}\,\diff x} }{ \DL{\int_0^X \ff{\gamma}{ \sqrt{x}} \diff x} }
\end{split} \qquad(23)
$$

(20)を代入すると、(21) と (22) から、

$$
\begin{split}
X = \lambda R, \quad \lambda = \ff{3}{2}
\end{split} \qquad(24)
$$

が得られる。

 $\lambda$ の値は、渦層の巻き上がり、あるいは引き締まりの度合いとみなすことができる。例えば、$\lambda > 1$ の場合、シートの長さ $X$ における渦度は、半径 $X/\lambda < X$ の円内に移動することになる。したがって、引き締まりは発生するが、その程度は大きくはならない。

 他方、渦層が非常に細いフィラメントに巻き上がるという考えは誤りである(顕著な三次元的伸張がない限り)。
今、螺旋の中心の位置は、力積の保存則から推定できる。例えば時刻 $t$ において、元の渦層の $0$ から $X(t)$ の間の部分は、循環 $2\gamma X^{1/2}$ で、半径 $R=X/\lambda$ の円に巻き上がり、循環 $2\gamma (\lambda R)^{1/2}$ は $(\overline{X}(t), \overline{Y}(t))$ を中心としていると想定される。流体力学的インパルスについて考えると、$y$ 成分については、保存則より、

$$
\begin{split}
2\gamma (\lambda R)^{1/2}\,\overline{X} = \ff{2}{3}\gamma X^{3/2} \quad (\overline{X}=\ff{1}{3}X)
\end{split} \qquad(25)
$$

と言える。

 垂直方向の変位を求めるのはより困難となる。なぜなら、無限遠での流れのため、$\DL{\int y\,\om\, \diff S}$ が保存されないためである。以下を考慮する必要がある。

$$
\begin{split}
\ff{\diff \B{I}}{\diff t} = \oint_{\infty} \left[ \ff{1}{2}\B{u}^2\B{n}-\B{u}(\B{u}\cdot \B{n}) \right]\diff s
\end{split} \qquad(26)
$$

無限遠にて、$\B{u}=\nabla \phi,$ $\phi\sim -\DL{ \gamma r^{1/2}\cos \ff{1}{2}\q }$ そして、(26) の右辺は、$\DL{ -\ff{1}{4}\pi \gamma^2\,\B{i} }$ となる。したがって、

$$
\begin{split}
2\gamma \sqrt{\lambda R} \overline{Y} = -\ff{1}{4}\pi \gamma^2 t \quad \left(\RM{i.e.,}\,\, \sqrt{X} \cdot\overline{Y}=-\ff{1}{8}\pi \gamma t \right)
\end{split} \qquad(27)
$$

 最終的な方程式は、巻き上げられた渦によって誘起される、$X$ における速度の $x$ 成分に対する $\diff X/\diff t$ の式から得られる。これは以下の式となる。

$$
\begin{split}
\ff{\diff \B{X}}{\diff t} = -\ff{\gamma \sqrt{\lambda R}}{\pi}\cdot \ff{ \overline{Y} }{\overline{Y}^2+(X-\overline{X})^2 }
\end{split} \qquad(28)
$$

これら、(25), (27), (28) より、我々は以下を得る。

$$
\left\{
\begin{split}
&\, \overline{X} = \xi (\gamma t)^{2/3} \EE
&\, \overline{Y} = \eta (\gamma t)^{2/3} \EE
&\, \xi = 0.14 \EE
&\, \eta = 0.61
\end{split} \qquad(29)
\right.
$$

Kaden は、より複雑な一連の仮定を用いて、$\DL{ \xi=0.57\left( \ff{9}{2\pi^2} \right)^{2/3}=0.34,\, \eta=0.88\left( \ff{9}{2\pi^2} \right)^{2/3}=0.52}$ という値を得ている。これは Pullin [1978] による数値計算の結果に非常に近い。しかし、これらの値は、力積保存則に基づく良好な近似値であるはずの (27) を満たしていないという疑問点が残る。

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