ここまで、速度場と渦度場は連続であり、その導関数も連続であると仮定してきた。実際の粘性流体であっても、これらの仮定は一般的には適切と見なされ、速度場は初期時刻、あるいは境界の速度が非解析的に変化する場合を除いて、至るところで解析的であると仮定される。
ただし、ヘルムホルツの法則が適用できるような、粘性の存在しない理想流体である場合は、数学的には非解析的な挙動が許され、連続的な速度場・渦度場などを考慮するだけで良いという物理的な直感は必ずしも正しくないことが示唆される。
実際、特異点や不連続性を持つ速度場や渦度場は、相当な重要性を持っている。もちろん、特異点は任意ではなく、オイラー方程式の積分形式、つまり、質量、運動量、エネルギー保存則と整合していなければならない。
特に、不連続面を横切る圧力は連続でなければならないという、動力学的な制約は、外力場にも特異点が無い限り満たされなければならない。
この章では、密度は一様であり、明示的に述べられない限り、$1$ に等しいとする。また、非保存力についても、明示的に導入されない限り、外力は保存力であると仮定する。
最も単純な不連続の形態は、面 $S$ を横切る渦度の接線成分の単純な跳躍である。この場合、両側の極限値の間で、以下の条件が満たされる。(添え字1,2で表し、$\B{n}$ は単位法線ベクトルを表すとする)
\begin{split}
(\text{i})&\,\,\B{\omega}_1\cdot \B{n}_1 = \B{\omega}_2\cdot \B{n}_2 \EE
(\text{ii})&\,\,\B{u}_1 = \B{u}_2\EE
(\text{iii})&\,\,p_1 = p_2
\end{split}
条件(i)は、$\text{div}\,\B{\omega}=\B{0}$ という運動学的な要求から直ちに従う。要件(ii)も運動学的な要求である。渦度は単純な跳躍を横切って有界であり、跳躍の「強さ」は両側の渦度の極限値の差となる。また、渦度の積分は連続であり、ゆえに単純な跳躍を持つ渦度場によって誘導される速度場は連続である。 表面張力などの、面内の特異的な力の不在を要求する条件(iii)は、面 $S_v$ が物質面であり、流体と共に移動することを意味する。
これを見るために、循環定理の証明は圧力と速度の連続性にのみ依存する。そのため、依然として有効であることに注意する必要がある。もし、無限小の閉回路(物質回路)が不連続面を横切るならば、速度は連続であるので閉回路の形状は連続的に変化しなければならない。このとき、渦度の跳躍はストークスの定理から循環の変化を生み出すはずだが、これは循環定理に反するので許されない、
したがって、流体は渦跳躍の面を横切ることはできず、またこの面は物質面でなければならない。すなわち、
\begin{split}
\ff{D S_v}{D t} = \ff{\del S_v}{\del t}+(\B{u}\cdot \nabla) S_v=0 \qquad(1)
\end{split}
ここで、$S_v(\B{x},t)=0$ は面の方程式である。ここに、$\B{\omega}$ の局所展開、
\begin{split}
\B{\omega} = \sigma H(S_v)+\,\,\text{less singular terms} \qquad(2)
\end{split}
を考えてみよう。ただし、$\sigma$ は渦度跳躍の大きさ、$H$ はヘビサイド関数とする。これをヘルムホルツの方程式に適用すると、
$$
\begin{split}
\ff{\del \B{\omega}}{\del t} + (\B{u}\cdot \nabla)\B{\omega}-(\B{\omega}\cdot \nabla)\B{u} &=-\B{\omega}\,\text{div}\B{u}\EE
&=H'(\sigma)\left( \ff{\del S_v}{\del t}+(\B{u}\cdot\nabla)S_v \right)+\,\text{less singular terms} \qquad(3)
\end{split}
$$
右辺の $H'(\sigma)$ の係数がゼロである場合には、式(1)が得られる。
逆に、式(1)と速度の連続性は、渦跳躍を横切る際の圧力の連続性を教えてくれる。これは、面を挟んで対面にある隣接する点の組、$A,D$ と$B,C$ を結ぶ閉曲線に式(1.6.3)を適用することでも分かる。すなわち、速度が連続で面が物質面であるため、各対はその相対位置を変化せず、そのため $A$ から $B$ への閉曲線に沿った循環は、$D$ から $C$ への循環と等しい。($A,B$ の組と $C,D$ の組はそれぞれの領域 $1,2$ に属している)つまり今、式(1.5.3)、(1.5.4)も用いると、
\begin{split}
\ff{\diff \Gamma}{\diff t}&=\ff{\diff}{\diff t}\int_A^B \B{u}\cdot \diff \B{s}\EE
&=\int_A^B \left( -\ff{\del p}{\del \B{s}}+\ff{1}{2}\ff{\del }{\del \B{s}}\B{u}^2-\ff{\del V}{\del \B{s}} \right)\diff \B{s} \EE
&=\left[ \ff{1}{2}\B{u}^2-V-p \right]_A^B \qquad(4)
\end{split}
同様の計算を $D,C$ の経路にも適用し、等値すると、
\begin{split}
p_B-p_A = p_D-p_C \qquad(5)
\end{split}
という関係が得られる。この関係から、もし圧力が1か所でも連続になったならば、面上のいたるところで連続でなければならないことを教えてくれる。ただし、$(\B{\omega\cdot \nabla})\B{u}$ は一般には連続とはならないことに注意しなければならない。
さて、一般に、渦の境界は渦跳躍であり、それゆえ物質面となる。定常流の理想流体において、渦跳躍となる2つの例について述べよう。
最初の例は、一様な円筒流フィラメント(ランキン渦)である。これの分析のために、円筒座標系 $(r,\q,z)$ を用いることにする。また、円 $r=a$ なる内側での渦度の $z$ 成分は $\omega_0$ であり、それより外側の領域における渦度は $0$ であるとする。さらに、流れは定常であるとして、$-\infty < z < \infty$ の範囲で方位角速度が以下で表されるとする。
$$
\left\{
\begin{split}
&\,u_{\q} = \ff{1}{2}\omega_0 r\quad(r\le a) \EE
&\,u_{\q} = \ff{1}{2}\ff{\omega_0 a^2}{r} \quad(r>a)
\end{split}
\right.\qquad(6)
$$
円筒面 $r=a$ は渦度跳躍である。そして、渦度の強さは $\pi a^2 \omega_0$ となる。圧力は次式、
\begin{split}
\ff{\del p}{\del r}=-\ff{u_{\q}^2}{r} \qquad(7)
\end{split}
に従うので、
$$
p=
\left\{
\begin{split}
& p_{\infty}-\ff{\omega_0^2(2a^2-r^2) }{8} \quad(r\le a) \EE
&\,p_{\infty}-\ff{\omega_0^2a^4}{8r^2} \quad(r>a)
\end{split}
\right.\qquad(8)
$$
この計算は、明らかに任意の軸対称渦度分布 $\omega (r)$ に適用できて、さらに連続する軸方向速度分布 $w(r)$ も追加できる。このような場合、流線と渦線の両方が $z$ 軸周りのらせん流れが得られる。なお、一般の $\omega(r)$ に対して、その接線速度は以下で与えられる:
\begin{split}
u_{\q} = \ff{1}{r}\int_0^r r\,\omega(r)\diff r \qquad(9)
\end{split}
ここで、$r\to 0$ での振る舞いを考えることにすると、式(9) は部分積分を用いて、
\begin{split}
u_{\q} &= \ff{1}{r}\left( \left[ \ff{1}{2}r^2\,\omega(r) \right]_0^r-\int_0^r \ff{1}{2}r^2 \,\omega'(r)\diff r \right) \EE
&= \ff{1}{2}r\,\omega(r)-\ff{1}{2r}\int_0^r r^2 \,\omega'(r)\diff r
\end{split}
となるので、$r\to 0$ にて、$\DL{\ff{1}{2}r\omega(0)}$ となることが分かる。さらに、半径 $r$ の円周りの循環 $\Gamma(r)$ は以下のように与えられる。
\begin{split}
\Gamma(r)=\oint \B{u}\cdot\diff\B{r}=2\pi r u_{\q}=2\pi \int_0^r r\,\omega(r)\diff r \qquad(10)
\end{split}
$r\,\omega(r)$ に対する唯一の制限は、無限遠での循環の大きさ $\Gamma_{\infty}=\Gamma(\infty)$ が有限であることである。$r=0$ での $\DL{ \ff{\diff u_{\q}}{\diff r} }$ の値は、$z$ 軸上での $\omega$ の値である。
一般の渦度分布については、2種類の半径を定義すると便利である。一つ目は、外側半径あるいは渦半径 $r_0$ である。これは、$\Gamma=\Gamma_{\infty}$ となる $r$ の値である。(または、$\Gamma=0.99\Gamma_{\infty}$ これは渦度が無限遠まで広がっていて、$r_0$ での渦跳躍が滑らかな尾?により置き換えられる場合) 二つ目は、内側あるいはコア半径 $r_1$ である。これは、接線速度 $v$ が最大値に達する位置である。
渦内での渦度分布が連続である場合、$\Gamma =\Gamma_1=2\pi r_1 v$ となる $\Gamma(r)$ の曲線と $r$ への曲線の接線は原点を通る。?
なお、一様渦では $r_0=r_1$ となる。「現実」の渦についての実測値では、$\omega$ の分布は鋭いピークを持ち、結果として $r_1<<r_0$ となることが示されている。
直線の渦線は、一様であろうと、任意の渦度と軸速度分布を持つものであろうと、実際の流れの渦モデルを構築するための基本的な構成要素となる。
2番目の例は、ヒルの球形渦である。ヒルの球形渦では、一様流の中で渦度が半径 $a$ 内の球内部に閉じ込められているような渦である。ヒルの球形渦において、渦線は球の中心を通る軸回りの円であり、その流線は子午面内にある。また、球の外側では流れは非回転である。
さて、ある瞬間で球の中心と一致する原点を持つ、円筒座標系 $(r,\q,z)$ を用いて、その渦度が $\B{\omega}=(0,\omega_{\q},0)$ の渦度分布を考えることにする。具体的には、ある定数 $A$ を用いて、
$$
\omega_{\q}=
\left\{
\begin{split}
&\,Ar \quad (r^2+z^2<a^2) \EE
&\,0 \quad\,\,\,\, (r^2+z^2>a^2)
\end{split}
\right.\qquad(11)
$$
であるとしよう。速度場は原理的には式(1.1.5)を積分することで求められるが、ベクトルポテンシャルを用いた計算、すなわち軸対称流での、ストークスの流れ関数を経由する方が便利である。このとき、スカラー関数 $\Psi(r,z,t)$ を用いて以下のように記述できる。
$$
\left\{
\begin{split}
&\,u_z = \ff{1}{r}\ff{\del \Psi}{\del r} \EE
&\,u_r = -\ff{1}{r}\ff{\del \Psi}{\del z}
\end{split}
\right.
\qquad(12)
$$
このとき、流線は $\Psi=const.$ となる曲線である。また、ベクトルポテンシャル $\B{A}$ は次の様に表せる。
\begin{split}
\B{A}=\left( 0, \ff{\Psi}{r},0 \right)
\end{split}
$\Psi$ を用いると、$\omega_{\q}$ はこのように計算できる。
\begin{split}
\omega_{\q} &= \ff{\del u_r}{\del z}-\ff{\del u_z}{\del r} \EE
&= -\ff{1}{r}\ff{\del^2 \Psi}{\del z^2}-\left( -\ff{1}{r^2}\ff{\del \Psi}{\del r}+\ff{1}{r}\ff{\del^2 \Psi}{\del r^2} \right) \EE
&= -\ff{1}{r}\left( \ff{\del^2 \Psi}{\del z^2}+\ff{\del^2 \Psi}{\del r^2}-\ff{\del \Psi}{r\del r} \right) = Ar \,\,\,\,(r^2+z^2<a^2)\qquad(13)
\end{split}
そして、$r^2+z^2>a^2$ の範囲では $\omega_{\q} = 0$ である。
さて、球面 $\sqrt{r^2+z^2}=a$ は渦跳躍であるが、速度の連続性から $\Psi$ と $\DL{\ff{\del \Psi}{\del z}}$ は連続であることが要求される。実際に計算を行うと、次の様になることが知られている。
$$
\Psi=
\left\{
\begin{split}
&\, -\ff{A}{10}\left(r^4+r^2z^2+\ff{5}{3}r^2a^2 \right)\qquad (r^2+z^2<a^2) \EE
&\, \ff{Ar^2 a^5}{15(r^2+z^2)^{\ff{3}{2}}}\qquad (r^2+z^2>a^2)
\end{split}
\right. \qquad(15)
$$
$r^2+z^2>a^2$ において非回転領域であることは、容易に確かめられる。また、
\begin{split}
\Psi’ = -\ff{Aza^5}{15(r^2+z^2)^{\ff{3}{2}}} \qquad(16)
\end{split}
のようにも記述できる。これは、$z$ 方向の速度が次式で与えられる、理想流体中を移動する剛体球によるものである。
\begin{split}
U = \ff{2Aa^2}{15} \qquad(17)
\end{split}
式(15)で与えられる速度場は、式(11)で表される渦度場で与えられる瞬間についてのものである。渦度場の発展は、ヘルムホルツの方程式(式(1.5.5)により記述されるが、式(11)の注目すべき点は、この渦度分布が形状を変えることなく速度 $U$ で伝播することである。今、$\DL{\ff{\del \omega_{\q}}{\del t}=0},\,\text{div}\,\B{u}=0$ のため(一様流、密度一様のため)、ヘルムホルツの方程式は、
\begin{split}
(\B{u}\cdot \nabla)\B{\omega} &=(\B{\omega}\cdot \nabla)\B{u}
\end{split}
となる。$u_{\q}=0$ であり、また円筒座標系において、$\nabla=\DL{ \left(\ff{\del}{\del r},\ff{1}{r}\ff{\del}{\del \q},\ff{\del}{\del z} \right) }$ であることに注意して、
$$
\left\{
\begin{split}
\, (\B{u}\cdot \nabla)\B{\omega} &= \left( u_r\ff{\del}{\del r}+\ff{u_{\q}}{r}\ff{\del}{\del \q}+u_z\ff{\del}{\del z} \right)\cdot(0,\omega_{\q},0) \EE
&= \left( u_r\ff{\del \omega_{\q}}{\del r}+\ff{u_{\q}}{r}\ff{\del \omega_{\q}}{\del \q}+u_z\ff{\del \omega_{\q}}{\del z} \right)\B{e}_{\q} \EE
&= \left( u_r\ff{\del \omega_{\q}}{\del r} +u_z\ff{\del \omega_{\q}}{\del z} \right)\B{e}_{\q} \EE
&= u_r\ff{\del \omega_{\q}}{\del r}\B{e}_{\q} \qquad(18) \EE
\, (\B{\omega}\cdot \nabla)\B{u} &= \left( \ff{\omega_{\q}}{r}\ff{\del}{\del \q} \right)\cdot(u_r,u_{\q},u_z)
\EE
&= \left( \ff{\omega_{\q}}{r}\ff{\del}{\del \q} \right)(u_r\B{e}_r + u_z\B{e}_z) \EE
&= \ff{\omega_{\q}u_{\q}}{r}\B{e}_{\q} \qquad(19)
\end{split}
\right.
$$
となるので、ヘルムホルツの方程式は球内で満たされていて、その外側も自明で満たされることから直ちに分かる。さらに、$\DL{\ff{D}{D t}\left( \ff{\omega_{\q}}{r} \right)=0 }$ であることに注意しよう。すると、球の内部が物質面であることを示すだけで十分である。この方針の場合、式(16),(17)から同様の結論が導ける。
圧力分布については、渦と共に移動する座標系を利用して、これにベルヌーイの定理を適用することで求められる。球の外側では、ベルヌーイ定数 $H$ は大域定数であり、$0$ としても一般性は失わない。すると、球内での圧力分布は、
\begin{split}
p=p_{\infty}-\ff{2A^2a^7}{225}\left( \ff{r^2-2z^2}{(r^2+z^2)^{3/2}}+\ff{a^3(r^2+4z^2)}{r(r^2+z^2)^{4}} \right) ,\quad r^2+z^2<a^2 \qquad(20)
\end{split}
球内では、$H$ の変化は式(1.9.4)の積分から求められる。これを計算すると、次式が従う。
\begin{split}
H=\ff{A^2r^2(z^2+r^2)}{10} \qquad(21)
\end{split}
圧力は、$V=0$ とすることで、式(1.9.3)から求められる。
\begin{split}
q^2=\ff{A^2}{25}\left\{ z^2r^2+z^2(z^2+r^2)^2+\ff{a^2z^2}{9} \right\} \qquad(22)
\end{split}
速度の連続性により、圧力は球の表面を横切って連続であることが、自動的に保障される。ゆえに、圧力が連続であることを確認する必要は無い。
ヒルの球形渦の速度場は、球内に粘性 $\mu$ による追加圧力 $2A\mu z$ が加えられるとすれば、渦の内外でナビエ・ストークス方程式を満たすように思われる。($\nabla^2\B{u}=2a\,\B{e}_z$ のため)速度が連続であることの運動学的条件は、境界を挟んで満たされている。しかし、法線おなび接線応力は $\DL{ \ff{\mu U}{a^2} }$ の項だけ異なる。そのため、応力が連続であるという、動力学的条件は満たされず、それゆえ全体の流れ場は、ナビエ・ストークスの厳密解とはならない。
ところで、Moffatt と Moore はヒルの球形渦の軸対称な擾乱に対しての安定性を調査した。彼らは、後部よどみ点での擾乱が際限なく時間と共に成長することを示している。ゆえに、渦は $L^{\infty}$ ノルムにおいては線形不安定である。
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