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3.2 流体力学的インパルス(Hydrodynamic impulse)

 初めに、無限遠では静止しており、有限領域外では渦度が消失するような無境界三次元流れについて考えよう。なお、境界流れや物体を含む流れの場合については、第4章で考察することにする。もし、いたるところで $\B{\om}=\B{0}$ であれば、$\B{u} = \B{0}$ となる。一方、大きく隔たれた距離では、流れは非回転のため、$\B{u} = \nabla\phi$ となる。このとき、$\phi$ は次の展開を持つ:

\begin{split}
\phi = \sum_{n=0}^{\infty} \ff{a_n S_n(\q,\lambda)}{r^{n+1}} \qquad(1)
\end{split}

ここに、$S_n$ は表面調和関数、$r,\q,\lambda$ は球座標系、$a_n$ は渦度分布に依存する係数である。湧き出しと吸い込みがない場合、$a_0 = 0$ のため、式(1)の主要項は次のように書ける。

\begin{split}
\phi = -\ff{\B{M}\cdot \B{x}}{r^3} \qquad(2)
\end{split}

 $S_1$ は $\DL{ \ff{x}{r},\ff{y}{r},\ff{z}{r} }$ の線形結合なので、(1.1.5)の漸近展開から $\B{M}$ を求めることができる。あるいは、原点にてモーメント $\B{M}$ の双極子がベクトルポテンシャル $\DL{ \B{M}\times \ff{\B{x}}{r^3}}$ を生成し、(1.1.18)で与えられる渦度分布のベクトルポテンシャルを展開することに注意する必要がある。今、$r=|\B{x}|$ として:

\begin{split}
\ff{1}{|\B{x}-\B{x}’|}=\ff{1}{r}+\B{x}\cdot\ff{\B{x}’}{r^3}+O(r^{-3}) \qquad(3)
\end{split}

と近似できるので、

\begin{split}
\B{A}(\B{x})\sim \ff{1}{4\pi r}\int \B{\om}(\B{x}’)\diff \B{x}’+\ff{1}{4\pi r^3}\int (\B{x}\cdot\B{x}’) \B{\om}(\B{x}’)\diff \B{x}’+O(r^{-3}) \qquad(4)
\end{split}

が得られるが、このとき式(4)の主要項は消失する。なぜなら、以下のようになるためである。

\begin{split}
\int\om_i(\B{x}) \diff \B{x}=\int \ff{\del (x_i\om_j)}{\del x_j}\diff \B{x}=\int_{S_{\infty}} x_i(\B{\om}\cdot \B{n}) \diff S = 0 \qquad(5)
\end{split}

であり、さらに(4)の第二項に対して、以下のトリックが用いられる。次のことに注意しよう。

\begin{split}
(\B{x}\cdot\B{x}’) \B{\om}’ = \B{x}\times (\B{\om}’\times \B{x}’)+(\B{\om}’\cdot \B{x})\B{x}’
\end{split}

また、

\begin{split}
\int (\B{\om}’\cdot \B{x})\B{x}’ \diff\B{x}’+\int (\B{x}\cdot\B{x}’) \B{\om}’\diff\B{x}’ &= \B{0}
\end{split}

が言える。このようになる理由は、左辺の非積分関数の総和について、

\begin{split}
x_j(x_i’\om_j’+x_j’\om_i’)=x_j\ff{\del (x_i’x_j’\om_k’)}{\del x_k’}
\end{split}

が成立するためである。以上より、

\begin{split}
\int 2(\B{x}\cdot\B{x}’) \B{\om}’\diff\B{x}’ &= \int \Big\{ \B{x}\times (\B{\om}’\times \B{x}’)+(\B{\om}’\cdot \B{x})\B{x}’+ (\B{x}\cdot\B{x}’) \B{\om}’ \Big\}\diff \B{x}’ \EE
\int (\B{x}\cdot\B{x}’) \B{\om}’\diff\B{x}’ &= \ff{1}{2}\int \B{x}\times (\B{\om}’\times \B{x}’) \diff \B{x}’
\end{split}

が言えて、よって、

\begin{split}
\B{A}(\B{x})\sim \ff{\B{x}}{8\pi r^3}\times \int (\B{\om}’\times \B{x}’) \diff \B{x}’ \qquad(6)
\end{split}

が言える。ゆえに、

\begin{split}
\B{M}=\ff{\B{I}}{4\pi} \qquad(7)
\end{split}

という関係が導入できる。ただし、

\begin{split}
\B{I}=\ff{1}{2}\int \B{x}\times \B{\om}\,\diff \B{x} \qquad(8)
\end{split}

である。なお、無限遠での速度場の大きさの次数は $\DL{ O\left( \ff{|\B{I}|}{r^3} \right) }$ であることに注意する必要がある。

 さて、量 $\B{I}$ は流体力学的インパルス(流れの単位密度あたり)と呼ばれる。無境界な流れに対しては、次で証明するように、運動量の役割を果たす。

\begin{split}
\ff{\diff \B{I}}{\diff t}=\int \B{F}\,\diff \B{x} \qquad(9)
\end{split}

 ここで、$\B{F}$ は非保存的な外力(単位密度あたり)を表す。力の分布は有限領域に限定されなければならず(または無限遠で指数的に小さくなければならない)。そうでなければ、無限遠で渦度が生成されるためである。非保存的な外力がない場合、たとえ流れ場がに非定常であっても、インパルスは運動の不変量となる。 (9)の導出過程は次のように進行する。まず(8)を時間で微分し、そして(1.5.5)の非圧縮形に $\DL{ \ff{\diff \B{\om}}{\diff t} }$ を代入して:

\begin{split}
\ff{\diff \B{I}}{\diff t}&=\ff{1}{2}\int \B{x}\times \ff{\del \B{\om}}{\del t}\,\diff \B{x} \EE
&= \ff{1}{2}\int \B{x}\times \text{rot}\B{F} \,\diff \B{x}+\ff{1}{2}\int \B{x}\times\text{rot}(\B{u}\times \B{\om})\diff \B{x} \qquad(10)
\end{split}

となる。

上式の導出過程について

以下のオイラー方程式のローテーションを取る。

$$
\begin{split}
\ff{\del \B{u}}{\del t} + (\B{u}\cdot\nabla)\B{u} = -\ff{1}{\rho}\nabla p + \B{F} \qquad(2)
\end{split}
$$

すると、

\begin{split}
\ff{\del \B{\om}}{\del t} + \nabla\times (\B{u}\cdot\nabla)\B{u} = -\ff{1}{\rho}\nabla\times\nabla p + \text{rot} \B{F}
\end{split}

今、$\DL{ (\B{u}\cdot\nabla)\B{u}=\nabla\left( \ff{1}{2}\B{u}^2 \right)-\B{u}\times(\nabla\times\B{u}) = \nabla\left( \ff{1}{2}\B{u}^2 \right)-\B{u}\times\B{\om} }$ であるので、

\begin{split}
\nabla\times (\B{u}\cdot\nabla)\B{u} &= \nabla\times\nabla\left( \ff{1}{2}\B{u}^2 \right)-\nabla\times (\B{u}\times\B{\om}) \EE
&=\B{0}+\text{rot}(\B{u}\times\B{\om})
\end{split}

※ 一連の計算では、非圧縮性流体であることを用いている。

一連の結果をオイラー方程式に戻すと、

\begin{split}
\ff{\del \B{\om}}{\del t} = \rot(\B{u}\times\B{\om}) + \rot \B{F}
\end{split}

となる。

 ここで、次のベクトル恒等式が成立することを用いる。(この恒等式は二次元では成立しないことに注意):

\begin{split}
\int \B{x}\times \rot\B{a}\,\diff \B{x}=2\int \B{a}\,\diff \B{x}+\int \B{x}\times (\B{n}\times\B{a}) \diff S \qquad(11)
\end{split}

 これを $\B{a}=\B{F}$ および $\B{a}=\B{u}\times\B{\om}$ として(10)に適用し、$\B{F}$ と $\B{\om}$ が無限遠で消失するため、上の第二項の表面積分が消失するということを考慮すると、以下を得る。

\begin{split}
\ff{\diff \B{I}}{\diff t}&= \int \B{F} \,\diff \B{x}+\int \B{u}\times\B{\om}\,\diff \B{x} \qquad(12)
\end{split}

 第二項は渦力の積分であり、(1.3)によって速度の表面積分に変換可能であることが言えて、さらに無限遠で被積分関数が $\DL{O\left( \ff{1}{r^6} \right)}$ なので消える。これを一般化すると以下の結果が得られる。(ただし、$\Omega$ は $S$ 上で一定とする)

\begin{split}
\int_V \nabla\Omega\diff \B{x}=\int_S \Omega \B{n}\,\diff S = 0
\end{split}

 これから、非保存的な外力 $\B{F}$ に対して、無限遠で一様なポテンシャルを持つ任意の保存力の場を加えることができ、これは常に実行可能となる。

 ただし、実際の運動量は無限領域では明確に定義されないことに注意しなければならない。なぜなら、一般的に $\DL{\int \B{u}\diff \B{x}}$ は条件付きでのみ収束し、必ずしも絶対収束はしないためである。$\B{a}=\B{u}$ として恒等式(11)から:

\begin{split}
\int \B{u}\diff \B{x}=\ff{1}{2}\int \B{u}\times\B{\om}\,\diff \B{x}+\ff{1}{2}\int \big[ \B{u}(\B{n}\cdot\B{x}-\B{n}(\B{u}\cdot\B{x} ) \big]\diff S \qquad(13)
\end{split}

 これは、体積 $V$ 内の流体運動量(単位密度あたり)が流体力学的インパルスと表面積分の和であることを示す。後者は、被積分関数が一般的に $\DL{O\left( \ff{1}{r^2} \right)}$ のオーダーのため、表面が無限遠に行くにつれて有界とはなるが、その値は表面の形状に依存する。たとえば $V$ が半径 $R$ の球の場合、表面積分で $\B{x}=R\B{n}$ かつ $\B{u}\sim \DL{ \ff{3(\B{M}\cdot \B{n})\B{n}-\B{M}}{R^3} }$ となる。代入して評価すると、表面積分の値として $-\DL{ \ff{\B{I}}{3} }$ が得られる。したがって、$V$ の半径を無限大にした球の場合、(13)は:

\begin{split}
\int_V \B{u}\diff \B{x}=\ff{2}{3}\B{I} \qquad(14)
\end{split}

という結果が得られる。

 もちろん、静止した剛体壁に囲まれた一定密度の流体の運動量はゼロとなる。なぜなら、その質量中心が静止しているからだ。等価的に、これは恒等式:

\begin{split}
\int_V \B{u}\diff \B{x}= \oint_{\del V} \B{x}(\B{u}\cdot\B{n})\diff S \qquad(15)
\end{split}

 から従い、静止壁上では $\B{u}\cdot\B{n}=0$ である。恒等式(15)は無境界流れに対する(14)の導出にも使用でき、(8)で与えられるインパルス $\B{I}$ の値は、(5)より $\B{x}$ の原点の選択に無関係であることも分かる。

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