等高線力学(Deem & Zabusky[1978],Dritschel[1988])での数値計算は、孤立一様渦斑に小さな「こぶ」が生じると、それが急峻化して高曲率点を作り、そこから細い渦糸が伸びることを示す。これは線形不安定な状態なら当然であるが、円形や線形安定な楕円でも起こりうる。なお「こぶ」の高さ自体は増大しないことが示されている。
急勾配化とフィラメンテーションの発生は、剛体壁に隣接する一様な渦度層でも観測される。例えば、渦度 $\om=\om_0, 0<y<h$ および $\om=0, h <y<\infty, y=0$ が剛体壁の場合 (Pullin [1981])、層は線形安定となる。しかし、この場合、層がそれほど厚くない場合であっても、より速い速度でフィラメンテーションを引き起こす、別の非線形二次不安定性メカニズムが存在することにも注意する必要がある (Pullin et al. [1990])。
フィラメンテーションは、渦斑が $L^1$ ノルムで非線形安定であっても発生する。これは、初期半径 $a$ の円形渦斑に対して、シュワルツの不等式 (Saffman [1985]) を用いて簡単に示すことができる。なお、このノルムは境界によって掃引される面積である。また、 $r(\q,t)$ を時刻 $t$ における渦斑の半径とすると、$L^1$ ノルムはこのように表せる。
$$
\begin{split}
L_1 = \ff{1}{2}\int |r^2-a^2|\diff \q
\end{split} \qquad(1)
$$
そして、シュワルツの不等式から、以下が言える。
$$
\begin{split}
L_1 &\leq \sqrt{ \int \diff \q }\,\sqrt{ \int (r^4-2a^2r^2+a^4)\diff\q } \EE
&= \sqrt{ 2\pi\int(r^4-a^4)\diff \q }\, = \sqrt{8\pi\,\delta(H)}
\end{split} \qquad(2)
$$
このようにできる理由は、面積の保存から $\DL{ \int r^2\diff \q = \int a^2\diff\q }$ と言えるためである。また、ここに $\delta(H)$ は、初期の擾乱による渦斑と円との間の角運動量の差を表す。
Wan と Pulvirenti [1985] による別解も示しておこう。
この結果は、渦度が無限遠に発散することを妨げるものではない(すなわち、$L^{\infty}$ 最大変位ノルムへの収束を意味するものではない)。ただし、長距離を移動する量が十分に小さいことが前提となる。Chemin [1991] の解析は、非線形の急勾配化はカスプやコーナーの形成につながらないことを示している。高さ $h$、幅 $l$ の隆起が半径 $R$ の円形渦斑上にあり、そこに渦度 $\om$ が含まれる場合、時間 $t_B$ で急勾配化してフィラメントを形成すると、次元解析から次の式が成り立つ。
$$
\begin{split}
t_B = \ff{1}{\om}\RM{fn} \left( \ff{l}{R}, \ff{h}{R} \right)
\end{split} \qquad(3)
$$
Dritschel’s [1988] の計算は、Pullin と Moore [1990] の計算によってある程度裏付けられており、次の式を示唆している。
$$
\begin{split}
t_B ≈ \ff{l^2}{2\pi \om h^2} \left( 15+\ff{100 l}{\pi R} \right)
\end{split} \qquad(4)
$$
線形不安定性により、$a/b>3$ の楕円渦斑ではフィラメンテーションがはるかに速い速度で進行する可能性がある。
フィラメンテーションの急勾配化は、剛体壁に隣接する均一な渦度層で観察される。例えば、渦度分布が $ω=ω_0,$ $0<y<h$ で、$ω=0, y>h, y=0$ が剛体壁の場合である (Punin[1981])。しかし、この場合、層が厚すぎなければ、前述の非線形二次不安定性メカニズムにより、より速い速度でフィラメンテーションが進行する可能性がある。
渦斑のフィラメンテーションと層のフィラメンテーションには興味深い違いがある。前者の場合、フィラメンテーションは押し出し型で、細い渦糸が非回転流体に侵入するのに対し、後者の場合、フィラメンテーションは侵入型で、非回転流体のフィラメントが渦層に侵入する。しかし、Pullin ら[1990] は、この違いは実際よりも見かけ上のものであると主張している。なぜなら、渦斑の場合、現象は突起が準静止している参照系で観察されるべきであり、その場合、外部流体は非回転ではないからである。さらに、MarsdenとWeinstein [1983]と Dritschel [1988] は、均一な円形渦斑の境界への小さな擾乱に対する弱非線形方程式を与えている。彼らは、以下の従属変数、
$$
\begin{split}
\phi(\q,t) = \ff{1}{2}\big( r(\q,t)^2-R^2 \big)
\end{split} \qquad(5)
$$
について、
$$
\begin{split}
\ff{\del \phi}{\del t}+\ff{1}{2}\om_0 \big( \phi_{\q}-\mathcal{H}(\phi) \big) &= \om_0 \ff{\del}{\del \q}\left( \ff{\phi^2}{4R^2}-\ff{\phi^3}{3R^4}+\ff{1}{24\pi R^4}\int_0^{2\pi} \ff{\big( \phi(\q)-\phi(\q’) \big)^3}{1-\cos(\q-\q’)}\diff\q’ \right)
\end{split} \qquad(6)
$$
という方程式を与えている。ここに、$\mathcal{H}$ は、
$$
\begin{split}
\mathcal{H}(\phi) &= \ff{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} \phi(\q’) \RM{cot} \ff{\q-\q’}{2}\diff \q’
\end{split}
$$
という円周上のヒルベルト変換を表すとする。また、その誤差は $O(\phi^4)$ のオーダーである。
この構造は、ポアソン構造 $\DL{ \ff{1}{\om_0}\ff{\del}{\del \q} }$ を持つハミルトニアン系として表され、それゆえ以下が成立する。
$$
\begin{split}
\ff{\del \phi}{\del t} = \ff{1}{\om_0}\ff{\del}{\del \q}\ff{ \delta H }{ \delta \phi }
\end{split} \qquad(7)
$$
ここに $H[\phi]$ はハミルトニアンであり、このようになる。
$$
\begin{split}
H &= -\ff{\om_0^2}{4}\int_0^{2\pi} \left( \phi^2(\q)-\ff{\phi^3(\q)}{3R^2}+\ff{\phi^4(\q)}{3R^4} \right)\diff \q \EE
&\quad+\ff{\om_0^2}{4\pi}\int_0^{2\pi}\int_0^{2\pi} \phi_{\q}(\q)\phi_{\q’}(\q’) \log \left| \sin \ff{\q-\q’}{2} \right|\diff \q \diff \q’ \EE
&\quad+\ff{\om_0^2}{192\pi R^4}\int_0^{2\pi}\int_0^{2\pi} \ff{\big( \phi(\q)-\phi(\q’) \big)^4}{ 1-\cos(\q-\q’) } \diff \q \diff \q’
\end{split} \qquad(8)
$$
A. Rouhi (私信) は、無限平面壁で囲まれた一様渦度 $\om_0$ の渦層が壁に平行な $x$ 軸方向に周期 $L$ で運動する場合の対応する方程式を導出している。まず、$h_0$ を渦層の平均厚みとして、界面の方程式は、
$$
\begin{split}
y = \eta(x,t)+h_0
\end{split} \qquad(9)
$$
とできて、$h_0$ は渦層の平均厚みで、そのハミルトニアンは、
$$
\begin{split}
H = \ff{\om_0}{2}\int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}} \int_0^{h_0+\eta(x,t)} \psi(x,y)\,\diff y\,\diff x
\end{split} \qquad(10)
$$
となる。なお、$\psi$ は渦斑内の流れ関数であり、渦度とその壁面像に関する積分(3.10.5)によって与えられるか、または方程式 $\nabla^2 \psi=-\om_0\,\,(y<h_0+\eta),\,\, \nabla^2 \psi=0\,\,(y>h_0+\eta),\,\, \psi(x,0)=0$ と、その $\psi$ の導関数が界面上で連続で、$y\to \infty$ でゼロ、そして $\psi(x,y)\equiv \psi(x+L,y)$ ($\equiv$ は合同の意)となるという条件から得られる。また、ハミルトン形式での運動方程式は次の通りである。
$$
\begin{split}
\ff{\del \eta}{\del t} = -\ff{1}{\om_0}\ff{\del}{\del x}\ff{\delta H}{\delta \eta} \,\, \left(=-\ff{\del}{\del x}\psi\big(x,h_0+\eta(x,t)\big) \right)
\end{split} \qquad(11)
$$
Rouhi によって $\eta$ の4 次のオーダーまでで計算された結果はこのようになる。($\A=2\pi/L, p=e^{-2\A h_0} $)
$$
\begin{split}
H[\eta] &= -\ff{\om_0^2}{2} \int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}} \left( h_0\,\eta^2(x,t)+\ff{1}{6}\eta^3(x,t) \right)\diff x \EE
&\quad-\ff{\om_0^2}{8\pi} \int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}}\int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}} \log \left[ \ff{1-\cos\A(x-x’)}{1-2p\cos\A(x-x’)+p^2} \right]\diff x\,\diff x’ \EE
&\quad+\ff{\A p\,\om_0^2}{24\pi} \int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}}\int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}} \big( \eta(x,t)+\eta(x’,t) \big)^3 \ff{\cos\A(x-x’)-p }{1-2p\cos\A(x-x’)+p^2} \,\diff x\,\diff x’ \EE
&\quad+\ff{\A^2 \,\om_0^2}{192\pi} \int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}}\int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}} \ff{\big( \eta(x,t)-\eta(x’,t) \big)^4}{1-\cos\A(x-x’)} \,\diff x\,\diff x’ \EE
&\quad-\ff{\A^2 \,\om_0^2\,p}{96\pi} \int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}}\int_{-\ff{L}{2}}^{\ff{L}{2}} \big( \eta(x,t)+\eta(x’,t) \big)^4 \ff{(1+p^2)\cos\A(x-x’)-2p}{\big( 1-2p\cos\A(x-x’)+p^2 \big)^2} \,\diff x\,\diff x’
\end{split}
$$
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