渦輪(vortex ring)は、円形形状をもつ渦糸(vortex filament)の特別な場合である。渦輪同士の一般的な相互作用を扱いたいなら、(それらが軸対称かつ同軸である場合を除いて)より一般的な取り扱いが必要になる。薄いコア(thin-cored)をもつ渦輪に対しては、ビオ・サバールの法則(§2.3参照)によるアプローチが用いられる。これは、渦糸が誘起する速度を、渦糸に沿う線積分として与える(式 (2.3.3) 参照)手法である。
今、渦糸が $\B{r} = \B{R}(\xi,t)$ という媒介変数表示を持つ場合について考えよう。なお、$\xi$ はラグランジュ座標、$t$ を時刻とする。このとき渦糸の時間発展は、本来なら $\DL{\ff{\del \B{R}}{\del t} }$ が誘起速度に(および渦糸上で評価した外部速度があればそれも)に等しい、という形で与えられるはずである。ところが周知のように、ビオ・サバールの法則は、場の点が渦糸に近づくと発散してしまう(式 (2.3.9) 参照)という欠点を持つ。
この問題を克服する古典的手法は「カットオフ(cut-off)」を導入することである(Thomson [1883])。すなわち、渦糸上の位置 $s$(ここでコア半径は $a(s,t)$、また $s=s(\xi)$ は渦糸に沿った弧長距離)において、渦糸が誘起する流体速度を
$$
\begin{split}
\B{u}(s) = \ff{\G}{4\pi} \int_{[\delta]} \B{s}’\times \ff{\B{R}(s)-\B{R}(s’) }{|\B{R}(s)-\B{R}(s’)|^3}\,\diff s’
\end{split} \qquad(1)
$$
と定めることにする。ここに $[\delta]$ は、積分から $-a\delta < s’-s < a\delta$ の範囲を除外することを意味する。式(2.3.8)において、$x=y=0$ と置くと、(1)の被積分関数は
$$
\begin{split}
\ff{1}{2} \ff{\B{b}}{\rho |s’-s|}+\RM{bounded\, \,terms}
\end{split} \qquad(2)
$$
のように振舞うことが分かる。ここに $\B{b}$ は従法線(binormal)ベクトル、$\rho$ は曲率半径である。したがって $s’\to s$ のとき、主要項として
$$
\begin{split}
\B{u}(s) \sim \ff{\G\,\B{b}}{8\pi \rho} \int_{[\delta]} \ff{\diff s’}{|s’-s|}\, \sim\, -\ff{\G}{4\pi}\log a\delta \,\ff{\B{b}}{\rho}
\end{split} \qquad(3)
$$
という形が得られる。
誤差項は $a\to 0$ の極限で有界であり、また $\delta$ は $O(1)$ と仮定する。このとき、主要近似として、
$$
\begin{split}
\ff{\del \B{R}}{\del t} = -\ff{\G\log a}{4\pi}\ff{\B{b}}{\rho}
\end{split} \qquad(4)
$$
とできて、$a$ を一定に保つようにすると、局所(ないしは局在化)誘導近似と呼ばれる上式が得られる。
さて、(4)の左辺はラグランジュパラメータ $\xi$ を一定に保ったままの $t$ に関する偏微分であるのに対し、右辺は $s$ の関数とみなされている。$s$ と $\xi$ を関係づけるために、次の運動学的結果を用いる。
$$
\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t} \log\left( \ff{\diff s}{\diff \xi} \right) = \B{s}\cdot \ff{\del \B{u}}{\del s}
\end{split} \qquad(5)
$$
さらに、$\B{s}\cdot \B{b} = 0$ かつ、$\DL{\B{s}\cdot \ff{\diff \B{b}}{\diff s} = 0}$(§2.3.2参照)であるため、$\DL{\ff{\diff s}{\diff \xi}=const. }$ が従う。したがって、一般性を失うことなく $s = \xi$ とすることができる。すると、時間の再スケーリング $t\to \DL{ -\ff{4\pi t}{\G \log a} }$ を施すことで、時間発展に関する方程式を、
$$
\begin{split}
\ff{\del \B{R}}{\del t} = \ff{\del \B{R}}{\del s}\times \ff{\del^2 \B{R}}{\del s^2}
\end{split} \qquad(6)
$$
と書ける。上の $\DL{\ff{\diff s}{\diff\xi}}$ の結果から局所誘導近似は、渦糸の長さを一定に保つことが分かる。
Hashimoto [1972] は、局所誘導近似の方程式を見事に3次元シュレーディンガー方程式へ変換している。具体的には、次を定義しよう。
$$
\begin{split}
\psi(s,t) = \ff{1}{\rho}\exp \left( i\int^s \tau\,\diff s \right)
\end{split} \qquad(7)
$$
上式の $\tau$ は、ねじれ率(torsion)を表現している。すると、
$$
\begin{split}
\ff{\del \psi}{\del t} = i\left( \ff{\del^2 \psi}{\del s^2}+\ff{1}{2}|\psi|^2\psi \right)
\end{split} \qquad(8)
$$
という式が得られる。
上式はいわゆる、3次元あるいは非線形シュレディンガー方程式であり、よく知られているように、その解は対応する線形問題の解と関係づけられ、多様な厳密解が知られている。とりわけ、ソリトン解を持つことは注目に値する。このテーマは複数の著者によって追究されている(例:Lamb [1976])。
長さを保存するだけでなく、この近似が線形インパルスおよび 角インパルスも保存することがこのように確かめられる。
$$
\left\{
\begin{split}
&\, \B{I} = \ff{1}{2}\G\oint \B{R}\times \B{s}\, \diff s \EE
&\, \B{A} = -\ff{1}{2}\G R^2 \oint \B{s}\,\diff s
\end{split} \qquad(9)
\right.
$$
これらインパルス保存には、幾何学的解釈もできる。というのも $\DL{\oint \B{R}\times \B{s}\,\diff s = 2\int \diff \B{S}}$ となって、これは渦糸が囲む曲面の 投影面積の 2 倍に等しいからである。保存則の直接証明は以下の通りである。
$$
\begin{split}
\ff{\diff t}{\diff t} \oint \B{R}\times \B{s}\,\diff s &= \oint \ff{\del \B{R}}{\del t}\times \diff \B{s}+\oint \B{R}\times \ff{\del \diff \B{s}}{\del t} \EE
&= \oint \ff{\B{b}}{\rho} \times \diff \B{s}+\oint \B{R}\times \ff{\del}{\del s}\left( \ff{\B{b}}{\rho} \right) \EE
&= \oint \ff{\B{b}}{\rho} \times \diff \B{s}+\oint \ff{\del}{\del s}\left( \B{R}\times \ff{\B{b}}{\rho} \right)\diff s-\oint \diff \B{s}\times \ff{\B{b}}{\rho} \EE
&= 2\oint \ff{\B{b}}{\rho}\times \B{s}\, \diff s \EE
\end{split} \qquad(10)
$$
しかし、$\DL{\ff{\B{b}}{\rho}\times \B{s}=\ff{\B{n}}{\rho}=\ff{\del \B{s}}{\del s}=\oint \left( \ff{\del \B{s}}{\del s} \right)\diff s=0 }$ であり、そのため、$\B{I}$ は一定と言える。
渦糸の長さ変化に対する別の見方として、弧長距離 $s$ で記述した時間発展の方程式用いることができる。すなわち、
$$
\begin{split}
\B{q} \equiv \ff{\del \B{R}(s,t)}{\del t} = \B{u}(s)+\A(s)\,\B{s}
\end{split} \qquad(11)
$$
ここに $\A$ は、ある原点からの距離を一定に保ったまま点が動くように、渦糸に沿う追加速度成分として選ぶ。渦糸上に原点 $O$ を取り、$\B{q}(0)\cdot \B{s}=0$ すなわち、$\A(0)=-(\B{u}\cdot \B{s})_0$ となるようにする。速度 $\B{q}$ で動く点について長さが一定に保たれる条件は、$\DL{\B{s}\cdot \ff{\del \B{q}}{\del s} =0}$ である。さらに、$\DL{\ff{\del \B{q}}{\del s}=\ff{\del \B{u}}{\del s}+\A\ff{\B{n}}{\rho}+\B{s}\ff{\del \A}{\del s} }$ であるため、したがって、$\DL{ \ff{\del \A}{\del s}=-\B{s}\cdot \ff{\del \B{u}}{\del s} = -\ff{\del (\B{s}\cdot\B{u}) }{\del s}+\B{u}\cdot \ff{\B{n}}{\rho} }$ が成り立ち、これを積分すると、
$$
\begin{split}
\A = -(\B{u}\cdot \B{s})+(\B{u}\cdot \B{s})_0+\int_0^s \ff{\B{u}\cdot \B{n}}{\rho}\,\diff s
\end{split} \qquad(12)
$$
が得られる。特に、$\A=0$ のとき $\DL{\B{u} = \ff{\B{b}}{\rho} }$ となる。
シュレーディンガー方程式のソリトン解やクノイド波解に加えて、渦糸が永久形(permanent form)を保ち、回転する平面内に存在している平面解(planar solutions)もある(Hasimoto [1971])。形状 $y(x)$ を持つそのような解が存在する条件は以下のようなものである($Omega$ はこの平面の角速度)。
$$
\begin{split}
\ff{\G}{4\pi \rho}\log \ff{1}{a} = -\Omega y
\end{split} \qquad(13)
$$
また、渦糸は平面と逆行(retrograde)方向に回転している、すなわち、渦糸の回転方向はコアの回転方向と反対であることに注意せよ。また、形状は次の方程式の解となる。
$$
\begin{split}
\ff{y^{”}}{(1+y’^2)^{3/2}} = k^2 y
\end{split} \qquad(14)
$$
これらはエラスティカ(elastica, 弾性)である(例:Love [1927, p.405])。Kida [1981b] は局所誘導近似の下で永久形をもつ渦糸について完全な記述を与えている。
この近似は優美な数学を導き、数値積分にも特に適しているが、重大な欠点があり、物理的妥当性は限定的である。第1に粗い近似であり、$\log 1/a \gg 1$ を要請するが、これは現実の渦糸では満たされる可能性が低いのである。⁴ 第2に、次元的に不整合な近似であることである。明らかに $a$ は渦糸全体を特徴づける何らかの長さでスケールされる必要がある。第3に、渦糸同士が互いをすり抜ける、といった非物理的挙動を許してしまうのである。
ただし「これはカットオフ仮説から得られる方程式の近似であり、そのカットオフ仮説自体が場当たり的(ad hoc)な近似である」という反論については、妥当ではない。というのも、カットオフ仮説は $a/\rho\to 0$ の極限で、任意形状の渦糸に対して形式的に正当化できるからである(Moore and Saffman [1972])。この問題は §4 で検討する。
脚注
- Dyson [1893] は解析を拡張して相互作用する渦輪を考察し、一様な渦輪は微小なフルート状(fluted)擾乱に対して安定であることを示した。
- コア半径が一定でなければならない、という先験的理由はない。
- この近似は Da Rios [1906] によって与えられ、その後何度も再発見されてきた。歴史的レビューと追加文献については Ricca [1991]、Hama [1988]、Hasimoto [1988] を参照。
- この反論は、古典的渦糸が量子化渦線の発展をモデル化するために用いられ、かつ (a) が原子間隔程度のオーダーに取られる液体ヘリウムでは、おそらく最も深刻ではない。しかしこの場合でも第二・第三の反論は依然として当てはまる。
コメント